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第291話

「奈々、このままじゃダメだよ」

奈々の母は、自分の娘と瑛介の関係はうまくいっていると思っていた。瑛介が弥生と離婚さえすれば、娘が正々堂々と宮崎家の妻になると考えていた。しかし、なんと二人は今まで友達以上のことを何もしていなかったのだ。

もし瑛介が本当に彼女を好きなら、これだけ長く付き合っていながら、一度も手を出さないなんてありえない。

「お母さん、私も分かってるけど、私から積極的に行動したら、瑛介にどう思われるか分からないわ」

奈々の母はこの言葉を聞くと、すぐに娘にアドバイスをした。

「積極的になる必要はないのよ。誘惑すればいいの。奈々、どうしてもっと早くこのことを話してくれなかったの?彼はあなたに何の衝動も抱かなかったの?」

「衝動?」

奈々は二人の付き合いの中での細かい出来事を思い返したが、何も感じることはなかった。彼女が感じたのは、瑛介が彼女に対する尊重と感謝だけだった。

考えれば考えるほど、奈々は危機感を覚えた。

「奈々、このままではダメよ。何か行動を起こさないと」奈々の母が提案した。

奈々は黙っていたが、心の中では母の言葉に納得していた。

彼女も、このままではダメだということは分かっていた。今まで彼女は常に高貴な態度で接していたが、その結果、弥生に先を越され、瑛介の子供を妊娠してしまった。

もうこうして黙っているわけにはいかない。彼女も何とかして、瑛介の子供を宿さなければならない。

「お母さん、心配しないで。瑛介は私のものよ。誰にも渡さないわ」

瑛介が家に帰ったのは深夜だった。時間は午前1時か2時に近かった。帰宅した時、にはみんなすでに寝ていた。

彼は静かに部屋に入り、すでに寝ている弥生の姿を見つめながら、視線が暗くなった。

今日一日彼女を避けたが、明日には彼女が会社に来て自分を探しにくるかもしれない。

もし彼女が本気で離婚したいなら、おそらく明日会社で彼女に会うことになるだろう。

瑛介はベッドのそばに立ち、弥生をじっと見つめていた。そして、彼女の滑らかな額にそっとキスをした。

そのキスは彼自身でも予想外の行動だった。ただ見つめていただけなのに、突然そうしたくなってしまったのだ。

それからはもう自分の体を抑えることができず、彼女にそっとキスをした。

額への軽いキスだったが、彼女に近づいた途端、瑛介は彼女の体から漂う
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